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福岡高等裁判所 昭和44年(行コ)19号 判決 1972年1月31日

久留米市西町花畑一〇一〇番地

控訴人

江口勇

右訴訟代理人弁護士

江崎晴

同市諏訪野町四丁目二四〇一番地

被控訴人

久留米税務署長

松尾金三

右指定代理人

三好仁吾

小林淳

大神哲成

神田正慶

右当事者間の所得税更正決定取消請求控訴事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三六年一〇月二三日付でなした原判決添付別紙別紙第一、番号2記載の昭和三五年度分の所得税の更正決定(但し、福岡国税局長が昭和三八年二月二〇日付でした同第一、番号4記載の審査決定により取消された部分を除く)はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」。との判決を求め、被控訴指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は、

(一)  控訴人において、

(1)  控訴人の本件山林の買受け代金は、従前から主張の如く金二四〇万円であるが、そのことは甲第一〇号証によつても明らかである。すなわち、右は、控訴人の前所有者訴外真鍋隼人が、昭和二七年一〇月一八日に本件山林を買受けた際の売渡証書であるが、右書証によれば、本件山林の買受け代金は金一三五万円となつている。しかるに、原審が控訴人の本件山林の取得原価を金一三五万七九四八円と推認しているが、右の如く前所有者が金一三五万円で買受け、そのうえ仲介手数料、登記手続費用その他必要経費を支出しているのを、原審認定の如き価額で控訴人に譲渡することは経験則上あり得ないところである。特に昭和二七、八年頃は朝鮮動乱による木材価格の高騰期にあつたことを思えば、前記訴外人が自己の取得価格に相当の利益を加えて控訴人に売渡していることは想像に難くないところである。

と述べ、

(2)  証拠として、甲第一〇号証を提出し、当審における証人茅島幸雄の証言ならびに控訴本人尋問の結果を援用し、乙第二四号証の成立を認め、

(二)  被控訴人において、

(1)  仮に、控訴人提出の甲第一〇号証が真正に成立したものとしても、同号証によつて成立した契約の目的物件には、本件売買の対象となつている物件以外に「八女郡大渕村大字道の上八〇七番地の四の四畝一八歩の山林」を含んでいるので、同第一〇号証の総面積と同号証中の右八〇七番地の四との面積の割合から、同山林部分の価額を算定すると金二八万五〇〇〇円となる。

135万円(契約金額)÷653歩(甲10号証による総面積)=約2067円(1歩当りの価格)

2067円×138(807番地の4の面積)=285000円

そこで、右甲第一〇号証の契約金一三五万円から、右の金二八万五〇〇〇円を差引くと、金一〇六万五〇〇〇円となり、これに仲介手数料金五万円を加えると金一一一万五〇〇〇円となり、右が本件物件の昭和二七年一〇月当時における訴外真鍋の買受け価額とみることができる。

しかして、原判決は、本件立木部分の取得価格および床地部分の取得価格を合計で金一四〇万七九八四円と認定しているが、この金額から前記訴外人の買受け価格とみられる金一一一万五〇〇〇円を差引けば二九万二九八四円となり、したがつて、前記訴外人は控訴人に対する売却により、右同額の利益を得たことになるところ、右利益は、買受け後一年しか経過していない短期間内における売買による利益としては妥当な金額であるといわなければならず、よつて、原判決の控訴人における本件物件の取得価格についての認定は正当であると述べ

(2)  証拠として、乙第二四号証を提出し、甲第一〇号証の成立は不知と述べた。

ほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

但し、証拠欄中「江口貴美子」を「江口喜美子」と訂正する。

理由

一、当裁判所も、被控訴人が控訴人に対し、昭和三六年一〇月二三日付でなした原判決添付別紙第一、番号2記載の昭和三五年度分所得税の更正決定(但し福岡国税局長が昭和三八年三月二〇日にした同第一番号4記載の決定により取消された部分を除く)中、原判決が確定した税額を超える部分は違法であつて、控訴人の本訴請求は、右違法部分の取消を求める限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、つぎに付加するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

(1)  もつとも、当審における証人茅島幸雄の証言の結果真正に成立したと認められる甲第一〇号証によると、同号証は本件山林を控訴人に売渡した訴外真鍋隼人がその前所有者から本件山林等を買受けたときの仮売渡証書であつて、その売買代金は金一三五万円となつているが、その売買物件の中には本件で争いになつている山林のほかに八女郡大渕村大字道の上八〇七番地の四の山林四畝一八歩が含まれているので、右甲第一〇号証記載の山林の総面積と同号証記載の右八〇七番地の四の山林四畝一八歩との面積の割合から、同山林部分の価額を算定すると、約金二八万五二四六円となる。したがつて前記甲第一〇号証記載の契約金一三五万円から右七〇八番地の四の価額相当分金二八万五二四六円を差引くと、金一〇六万四七五四円となるところ、これが訴外真鍋の右七〇八番地の四を除く、本件山林の部分の買受け価額とみることができ、これに当審における証人茅島幸雄の証言によつて認められるその仲介手数料金五万円を加えると、金一一一万四七五四円となるので、これをもつて、訴外真鍋の本件山林の取得原価と推認することができる。そうすると、当裁判所が引用する原判決認定の如く、控訴人の本件山林の立木および床地部分の取得価格を計金一三五万七九八四円としたとしても、前記訴外人はなお相当の利益を得ている計算になり、当時朝鮮動乱により、木材価格が高騰の傾向にあつたとしても、訴外真鍋の買受けから売却までの期間が一年に満たない短期間であつたことを考えるとき、右認定に控訴人主張の如き不合理はない。

したがつて、甲第一〇号証をもつても、引用の原判決の認定を覆す資料とすることはできない。

(2)  当審における証人茅島幸雄の証言ならびに控訴本人尋問の結果中、

以上の認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、そうすると、原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 弥富春吉 裁判官 原政俊 裁判官 境野剛)

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